経済産業省に引導を渡された私,やっと,経済的な死亡宣告が出ました.

一般的には,黙り通す人のほうが大多数な話ですが. 業界のディープな方々は「どうなっちゃったの? 顛末がよく分からん」って永く思っていらっしゃるでしょうし,珍しい名字ですし,検索エンジンは非情ですので早晩,私の名前は出てきます. 官報の破産情報だけ転載し続けているwebサイトとか,ありますからね.

なので,言っちゃいます. わたくし,やっと破産手続き,開始しました.

  • 平成26年(フ)第2841号
  • 平成26年(フ)第2842号
  • 平成26年(フ)第2843号

なんで3つあるかというと,私の分.私が代表だった会社2つ分,合計3つだからです. ややこしいです. 「東京地方裁判所民事第20部」でさえも,封書で誤記して,二重線訂正で送ってきましたから.

原因

まあいろいろあるのですけれど. 致命傷となったものを下記列挙しますが,結局は,私が,経営者として未熟だったということに尽きます. 〇〇が悪かったとは言っても,決断しハンコを押したのは,私ですから.

税理士への丸投げ

担当税理士が酷かったのを私が見抜けなかった,っていうのは,じわじわと効いてきました. 破産管財人さんに言われて気づいたのですが,固定資産の償却が一切行われていないとか,

回収済みの売掛金が数年に渡って残ったままだったとか. これは知った私も唖然としましたが,それ以上にメインバンクが激怒しました.

そういえば,税務調査が入った時も,なんもしてくれなかったなぁ. 国税官の早とちりで,会社としては無実だったので,私が全面的に闘いましたが.

日々の記帳は会社(というか私)がやっていたので,両成敗の話なのですが. 月々数万円を払って,結局何も見てもらえていなかったという.

もとをたとれば,社員の友達が税理士事務所に勤めている,という縁故での契約だったのでした. そういう契約は,とても良い結果がでるか,酷いことになるか,両極端ですね.

サポイン事業

急速に資金繰りが悪くなった直接の原因は,経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業」,いわゆるサポイン事業の採択でした.

私が代表を務めていた零細企業である,もなみソフトウェアは,典型的な,技術指向の会社でした. 代表者である私は,会社での仕事のほぼ全ては技術者としての実務でしたし,取締役(合資会社ですから正確には有限責任社員)にもエンジニアがいます. 会社組織なので,分担はしますが,会社の顔になるような技術の多くで,私がプロジェクトリーダとして動いていました.

サポイン事業の申請内容には,Eclipse が技術要素として入っていました.これは,私が,というよりも申請者の中で私だけが技術内容を十分に内容を理解していました. 当然のことながら,私はサポイン事業に100%コミットする予定で,申請書もそのようにかきました.

しかしながら,経済産業省は,採択が決定し,その契約説明会の段になって,以下のように知らせてきました.

企業代表者の作業については,時間単価は 0 円とする. 取締役級の作業者については,時間単価を減ずる.

どうやら,私の会社が採択される前年に,社長の単価を不当に釣り上げた事例があったようです. あとから事情通から聞きました. 社長の報酬は,税法による縛りはあるものの,社長が勝手に決められますから.

もなみソフトウェアとしては,盛大な,とばっちりを受ける格好になりました.

説明会の席上で,机を蹴飛ばして出て行けばよかったのにと,他人には言われますし,私も今は思います. 「事業は1年あるから,その間に別の案件を取れば帳尻あうかな.それに製品化を急げば…」など思ったのが甘かったのでした. アドバイザに,名だたる大手セミコンダクタ数社や自動車系企業が名を連ねていて,降りるとは言い出せなかったという,心の弱さもありました.

結局のところ,全責任は私にあります. とはいえ,契約の直前になって,いきなり単価を0にしてくれといいだすというのは,社会通念上,ありえない話です.

サポイン以前も,そんなに経営的に安定しているわけでもない会社でしたが, 技術指向の零細である,もなみソフトウェアにトドメを刺したのは,経済産業省の事業の制度設計でした.

経済産業省としては,社長が技術者でもあるような会社は,消えてしまえばよいと思っているのでしょうね. そりゃベンチャーが育たないわけですわ.

弁護士介入から遅れた理由

2012年に弁護士介入で,今になって手続き開始です.随分と間があります.

その理由も,一つはサポイン事業です. サポイン事業は,お金が出る期間と,事業計画の期間にズレがあります. 事業計画の期間が終わるまで,会社を潰せなかったというのが理由の一つです.

あともう一つは,会社を潰す,つまり破産するにもお金がいるということです. 少しの余力も残さず破綻したので,破産管財人に支払う予納金も用意できない というところまで追い詰められました. 個人なら法テラスに頼ることもできますが,法人にはそのような支援はありません. この点も,今振り返れば,うまくできた気もします. 経験値は積めましたが,もう2度と使うことは無いので,まさにトリビア,ムダ知識です.

この先,どうするの?

すでに,合同会社もなみ屋という会社を作って,今までと似たような技術分野で仕事をしています.

1年半くらい前から,自分が作った会社の葬式の準備をしながら,新しく自分で作った会社を産み育てるという,相反する2つの作業を並行していた形になります. 片方だけでも精神的につらい作業なので,自己が崩壊するのではと思う時もありましたが,やっと人並みの追い詰められ方になりそうです.

ブラックリスト入りですから,強制的に無借金経営をすることになります. クレジットカードも作れないのでカード決済が多いIT業界では自営は無理かな,と思っていたのですが,VISAデビなど上手く使うとそれなりになんとかなるということも判りました. 売上も社員も0からのスタートですが,肝心要の知財は残りました.

技術分野がオープンソース・ソフトウェアだったというのは不幸中の幸いでした. プロプライエタリ・ソフトウェアであれば,それは会社の資産であり,継続することは不可能でした. オープンソースの耐リスク性を,身を持って知りました. そもそも会社を潰すなよ,という話ではあるのですが.

技術がダメで潰れたとしたら,たぶん足を洗って何か別の仕事に就いたかもしれません. 経営者としてはダメだったので,経営から足を洗うべきか真剣に考えました. しかし,私が持っている技術を活かせそうな経営者が,周りにいませんでした. 無借金経営という枷がかけられている状態なら,以前のような過ちは起こしようがないかなと,自分に言い聞かせることにしました.

経営者としては控えめにコツコツと,技術者としては以前と同様に荒ぶって,日々を過ごせればと思っています.