ガラケー。のち、車載システム

ずいぶんと昔のこと。 2年間、いや、もう少し長いかもしれない。特定派遣認可の技術系の会社に在籍したことがある。 国立系研究所の技能補佐という微妙な職歴を捨て、どこかに派遣でもされてリセットしようと思っていたのだが、なぜか面接で社長に気に入られたらしい。 とある地方の県庁所在地での支店の立ち上げ、携帯電話キャリアとのコラボ企画、技術営業・技術経営のイロハとなるような経験を積ませてもらった。

そんな己のキャリアとは全く無関係に、ちょうどその頃、携帯電話業界では変革が起きていた。 i-mode の登場だった。

それ以前の端末に比べると、i-mode 対応端末のソフトウェア規模は格段に大きい。 そして、(新しいものだから当然なのだが)流用できる過去資産も、ほとんど無い。 いきおい、人足不足になる。

最初は

C言語ができるエンジニアが欲しい。Hello world が作れる程度でも欲しい。現場で教えるから。

そのうち

日本語がわかってキーボードが打てるなら、それでもいいや。あと残業が平気な人

開発規模が膨大になったとはいえ、その時点では、今から考えればヒヨコ並みの小ささではある。 とにかく人手。人手が揃えばなんとかなる。

派遣系および偽装請負系、特に地方のソフトウェア会社クラスタにとっては、特需的だった。 まだ日本の家電系メーカは資金に余裕があったし。 地方の銀行が潰れたりして、組み込みシステム以外のプログラマが若干あまり気味だったりもしていたし。

エンジニアの給与は、時給だけで言うなら昔も今も割と良い。 いろいろな背景の人が面接にやってくる。 エンジニアとしての適性に疑問符が付く場合でも、採用になったりもしていた。 とにかく人を集めてくるだけでお金がまわっていく。そこにはソフトウェア工学なんてものは無かった。

「人を集めて放り込むだけ。ちょろい仕事でみんなハッピー、イイねイイね!」などと思ったりもした。 …坊やだったからさ。

あれから 20年弱。 日本の携帯電話業界がどうなったかは、業界に身を置かなくても、専業主婦でも高校生でも伝え聞いているだろう。

ガラケーの進化に伴うソフトウェア規模の爆発、開発者たちのデスマーチ。 そして、iOS と Android という、きちんとしたソフトウェア・プラットフォームによる、ガラケーの殲滅。

今は、後悔している。 当時、何ができたということも無いし、あれで確かに経済は回り幸せを掴んだ人も居たのだけれども。

そして。

同じような構図が、また日本のソフトウェア業界で起ころうとしているように思えている。

今回は、車載ソフトウェアという分野で。

繰り返されることの善し悪しは、正直、よくわからない。 ただ、言える。繰り返されそうだということだけは。