なぜ日本の「中堅IT企業」は優秀なプログラマを囲いきれないのか (3)

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“デキる”中堅IT経営層と4桁(年収)プログラマとの齟齬

“デキる”中堅IT経営層は、日本には少なからず居る。 ここでいう”デキる”とは、技術に夢を持ち、資金調達の能力をもち、潰さず500名規模まで伸ばせる人材の層を指す。 同時に “デキる”プログラマも、日本には少なからず居る。

しかし、両者にはミスマッチがある。 両者とも、実績を積んだのは事実であり、生産性を高めた結果として地位なり収入なりを得ている。 そこには両者なりの合理性がある。

日本の中堅IT経営層は、多段下請構造に自らを最適化することによって自社を潰さず伸ばしていった。 日本の産業構造が求めた結果であり、彼らに求められるのは会社を続け雇用を確保することなのだから、彼らの行動は合理的である。

結果として、日本の中堅IT経営層の多くが考えるリソースとは、”人財”となる。 よって、企業の拡大局面においては、ヒューマンリソースが現場に投入されがちである。

不思議なもので、彼らの少なからずは「人月の神話」を読んでいる。 特に CTO やそれに準じる職位にあっては、読んだことがないという事例は(私が知る限り)一例もない。

一方、プログラマにとっては、高い生産性を求められるほど、コンピューティングリソースが必要になる。 言い換えると、コンピューティングリソースが与えられないプログラマは、その潜在能力と報酬が高ければ高いほど、”穀潰し”でしかなくなる。 よって、企業の拡大局面において、”デキる”プログラマが現場の投入を望むのは、”サーバ群”である。

乱読傾向にある彼らの少なからずもまた、「人月の神話」を読んでいる。 「拡大局面において無計画に”人材”を投入するのは無能な管理者の行いだ」ということを、自らの体験と重ねあわせて解釈している。

“人財”と”サーバ群”。これがそれぞれ”デキる”層だったとしても乗り越えることが難しいほぼ唯一のミスマッチと、私は考える。

予算執行権と既決感

そして、一般論として、技術専門職には予算執行権が十分に与えられない。 私が見聞きしたケースを元に最悪に近いケースを作ると、こんなストーリが作れる。 現実に起きたものを組み合わせたものだが、事例を特定できない程度には脚色している。 (もしこんなことがストレートに起きたのだとしたら、関連する全員にとって不幸以外の言葉がないだろう)

  1. プロジェクト開始時に予算が少なかったし、社内システムはグダグダだったので、i3コア/4GB RAM/500GB HDDのデスクトップでビルドツールベルトを構築した。
  2. 能力は買われていて、アーキテクチャの全てを彼は作成した。
  3. 数年後、社運を左右するプロジェクトにまで成長したので、サーバ増強を経営層に直訴した。
  4. のらりくらりされ、妥協の末の 7800円のポータブル HDD さえも購入稟議が通らなさそうだった。
  5. その割に外部からの”人財”が続々投入され、コミュニケーションコストで仕事にならない。
  6. ある日、ディスククラッシュした。データはサルベージできたが、プログラマはプロジェクトに見切りをつけた。

プログラマはロジカルであろうとする傾向があるので、見切りをつける合理的な理由を与えてしまうと概ね手遅れである。 たった 7800 円のケチで、見切りをつけられてしまう。

年商 50 億の企業で、大げさだとしても社運という言葉が出るなら数億からの商いだろう。 「プログラマのほうもちょっとそこは大人になれよ…」など思わなくもないのだが、まあ、プログラマ界隈で、経営層を擁護する意見は少数派だろう。 読者の中にも、それぞれの職場で「7800 円の高すぎるケチ」を見たプログラマも居るだろう。

そして、経営層がこの作り話を聞いたならば、「まったく勝手な話だ」と憤慨するだろうとも思う。 なぜならば、プログラマに対して、彼らが最も大事であると考える “人財” というリソース提供をしていたから。 彼らは彼らの仕事を全うしていたわけである。「なのにあのプログラマときたら」てな塩梅であろう。

もしかしたら、技術に明るければ明るいだけ、理解が難しくなるかもしれない。 技術を解っているというのと、コンピューティングリソースを使いこなせるというのは、微妙にスキルセットが違うものだ。

両方の立場がわからなくもない私には、なんとも勿体無い話だと思えるのだが。 こんな光景はおそらく日本の中堅IT企業では繰り返されているのだろうとも思う。 「ソフトウェアに国境なんて無い」とはいえ、せっかく、そこそこの規模のソフトウェア産業が立ち上がった日本である。 なんとかならないのだろうか。 国内のコミュニケーション不全でグダグダしているうちに壊滅するのを待つしか無いのだろうか。かつて隆盛を誇った家電業界のように。

To be continued

「じゃあどうすんのさ」について書いて、一連を閉じたい。 …のだけれども、一気に書いておなか空いたので、明日以降。