Keep Good Company

起業したいという方と話をしていると,必ず出るのが,雇用に関する話.

曰く,「起業をしたいのに,社員候補が居ない.」 経営と雇用を混同している起業志望者の.典型だ.

別のパターンもある. 同年代で先に起業した人たちの「社員の定着が悪い」とぼやくのを聞き,起業前から心配している. 中年から上の年代に多い.

こんなふうに,起業/経営と,雇用することが不可分になっている方は,想像以上に多い. …というか,私自身が,割と長い間,不可分に考えていた.

今の私は,こう思う. 「雇用するから,社員の心配をしなければいけなくなる.雇用はしちゃダメ」

限られた例外は,人材派遣会社だ. 特に特定派遣は,雇用をしないわけにはいかない.社員にしないと派遣できないから. 私に思い浮かぶのはこの1例のみだが,その他,許認可等で,雇用が避けられない場合も無くはないだろう.

しかしそれでも,雇用は可能な限り避けるべきだと,思う.

ネットの進展で,特に経理総務系の仕事の多くはアウトソーシングできる. 10年前に Money Forward があったなら,私は総務雇用のみならず税理士との契約もしなかっただろう. 物販のロジスティクスは,月5000円からでAmazonが引き受けてくれる.

セールスだけは,どんな分野であれ自社で抱えたほうがよいと,私も思う. しかし付随するPRやブランディングに関しては,外にだしたほうがよい結果が得られる.(もちろん,それらを商材としている会社は別)

技術者も,優秀な人は必ずしも雇用しなくてもよい時代だ. もしIT関係なら,人材派遣や紹介業に頼らなくても,勉強会などで学生やフリーランスを一本釣りすることは不可能ではない. サラリーマンでも,以前ほど副業規定はきつくない. もちろん,一本釣りに見合うだけの目利きや信頼を,釣る側が備えている必要はあるけれども.

起業関連のセミナーに行くと,厚生労働省が数多くの雇用対策の助成を行っている,と紹介される. なんとなくお得に感じるのは,解る. でも,国が特定分野に助成を行うということは, 経済合理性に任せた場合には,誰も国の思惑通りには選択しない,ということでもある.

中規模老舗企業は,なんだかんだいって資金的にも総務人事機能的にも体力がある. 延命として,そういう貧乏くじを自ら引くのは,アリだろう. しかし,資本力が無いスタートアップにとっては,まさに自殺行為だ.

少し考えると,解ることだと思うのだが. 目の前の現金に釣られたくなる気持ちも解るのだが.

こういったことを切々と説明しても,起業志望者たちの少なからずは,納得した顔にならない.

私の説明が舌足らずなのだろう. そんなときは,「そうですね.気のいい社員が見つかって,愉しい会社ができるといいですね」 と作り笑顔で話を打ち切る.

作り笑顔ではあるけれども,発した言葉は嘘ではない. そう. 気のいい社員と一緒に製品やサービスと世に問うのは,とても愉しいことなのだ.

だからこそ,起業家たちは,雇用には慎重にならなければならない. 気のいい社員を解雇する瞬間の絶望を,先回りして想像しなければならない. 経営をしたいのか,雇用をしたいのかを,常に自らに問わなければいけない.

悪いことは言わん. 絶望を味わったヤツの言うことは,聞いておけ.

この辺甘く考えていると,My own Limited Company しか残らない最後が来るよ.

その上で,雇用をしたいなら,すればいいと思う.

なお,言うまでもないことだけれども,雇用自身は絶対悪ではない. 費用対効果が得られる確証があっての雇用は,経営者が決断すべき仕事ではある.