参加しないと見せないよ.を作った罪

140字以内で纏めると,こういうこと.

私は,TOPPERSプロジェクトという,組込み系OSSを担いだNPOに参加していた. 設立準備から手伝って,一応10年くらい理事もしていた.

NPO法人TOPPERSプロジェクトは,組込みソフトの団体として,成功したと思う. 電子ピアノにも,宇宙機にも,自動車にも載った. 私が書いたソースコードも,割と入っている. そこらそんじょのOSSなんざ蹴散らすくらいの採用例,出荷総数はあるだろう.

今は辞めた. 理事も辞めたし,今や会員ですらない.

当時やっていた会社が傾いたとか,いろいろ直接的な理由はあるのだが. 大きな背景として, OSSプロジェクトとしてのアンチパターンを作っているのではないか ,という疑問が年を追う毎に,私の中で大きくなっていったのが,ある.

TOPPERSプロジェクトには,会員以外には見せないよ,という仕組みがある. 具体的には,いわゆる,早期リリースという制度. 当初から,会員企業が受託製品に使った場合の,ソースコードの扱いとか,厳密運用が難しいことは解っていた. 私が辞める頃には,会員が,先に開かれたOSS (って表現は変だが) として公開し,そのあとプロジェクトにコントリビュートするなんてこともあったりして,制度として崩壊していた気もする.

“オープン”ソースを管理するプロジェクトがソースコードを隠す,というのは,少し考えればわかる.矛盾した話だ.なんで当時気づかなかったのだろうw.

そして,各方面が指摘しているとおり,オープンソースは,ソースコードもさることながら,生産や管理のプロセスの透明化にメリットがある. 生産や管理のプロセスを,参加者にしか見せないというのは,ソースコードを隠すのと同様に,スジとしては最悪手の部類だろう. そこで,本稿最初に引用した tweet へ繋がる.

組織として成立させるためには,なんらかのメリットを出す必要はある. その辺りの仕込みは大変なところだと思うのだがしかし.

言い訳になるが,TOPPERSプロジェクトが立ち上がった2000年当時,オープンソースは暗中模索だった. 私は他人様よりも愚かなので,間違いも多い. でも,もうあれから月日は流れた. 私は愚かなままかもしれないが,他人様はそろそろ良手を編み出しても良い頃だろう.

良手を編み出す上で,悩ましいのが,TOPPERSプロジェクトの確かな成功ではないかという気がしている. 厳密に言うと,NPO組織としては,安定収入で成功しているという事実だ. …というと不幸を望んでいるように読めそうだが,言うまでもなく,そうではない. 今は袂を分かつ立場だが,成功するように私も頑張った. 成功し続けていただかないと,日本の組込みソフト業界全体が困る.

しかし,言葉を慎重に選ぶべきかもしれないが,OSSプロジェクトとしてのTOPPERSは失敗だったとも思っている. もともと「OSSは目的ではなく手段だ」という立ち位置の団体ではあった. なので,OSSプロジェクトとして側面がどうなろうとも,TOPPERSプロジェクトには何らの傷がつくわけでもない.

私がマズいと思っているのは,TOPPERSプロジェクトの成功が,OSS系NPOのロールモデルになりそうな傾向だ. 実際,TOPPERSプロジェクトの定款を参照しました,という声は,他の{組込系|OSS系}NPOから,ずいぶんと頂いた.

「第8回 日本OSS貢献者賞・日本OSS奨励賞」 が示す通り,ニッポンのOSSは,この点についてあまり深く考えていないか,判っていて目をつぶっているか,どちらからしい. そして,そのロールモデルが確立するまでの10余年には,間違いなく私がいる. 割と中心に近いところに.

罪なことをしたなぁ,と,肩を落としている.ごめんなさい.