組込み技術者と'幸せ'

まくら

とあるWebメディアから,新春インタビューの依頼を受けました. どこからかは,載るまで秘密です.載らないかもしれませんし.

このエントリを書いている時点では取材前ですし,載ったとして,(当然)年越しです.

来年の予測を,ざっくばらんに…とは言われたものの,そのとおりにすると,纏まらないわ人を無闇にdisるわで大変なことになります. 我ながら目に見えるょぅ….

組込みシステム業界は,誰の顔を見ている?

そんなわけで,ここ数日,寝しなに,来年とか今後数年後の組込みシステム業界を空想してみたりしていました.

そのとき,ふと思ったのです.

もしかして,日本の組込みシステム業界って,組込みシステム業界のことしか考えていないんじゃないの?

オピニオンリーダーたちの発言から

組込みシステムに限らず,業界には,オピニオンリーダーという方々がいます. 彼らの意見は,必ずしも業界の代弁人ではありませんが,概ね業界の方向性を決めます. 生臭い話ですが,政策,つまり税金の使い道も左右します.

曰く,

  • 「将来数十万人規模で組込み技術者が不足する」
  • 「車載ソフトを海外製に牛耳られたら日本は終わりだ」
  • 「TRONはUIを捨てて制御に走るべきだ」
  • 「品質の確保は仕様記述の厳密さから云々」

あんまり具体的な発言を引用すると,特定の誰かに喧嘩を売っているように思われかねず,それは本意ではないので自重します.

…など弱腰になりつつ,改めて,日本のオピニオンリーダーたちの言葉をググって見ると,一つの傾向が見られる気がしてきます. みんな,業界の中の話ばかりしているんじゃないの?,と.

組込みシステムは最終顧客に理解されているか

組込みシステムは工業用機械から家電製品までカバーするので,最終顧客を絞りづらいのですが,ここではとりあえず日用品に絞ります. すると,最終顧客は消費者となります. 出荷台数という観点では最大顧客層ですから,悪い絞り込みでは無いでしょう.

さて,例えば,近所のスーパーマーケットに行ってみるとします. レジのおばさんに,「将来数十万人規模で組込み技術者が不足する」ことの意見を聞いて,どういう反応が返ってくるでしょうか. おばさんが叩いているレジは,組込みシステムです.

駐車場に移動して,日本車を停めて降りてきた人に「車載ソフトを海外製に牛耳られたら日本は終わりだ」って話たら,どうでしょうか.

たぶん,返事は,要領を得ないでしょう. “風が吹けば桶屋が”の喩えで,問題点を理解してもらうことは,不可能ではないかもしれません. しかし,(おそらく)一発では反応を得られないでしょう. 最終顧客には直接の興味のない話を,日本の組込みシステムのオピニオンリーダーは,しています.

外の人に向けたメッセージ

日本の組込みシステム開発の関係者からは,「そりゃそうだ,それらは,中の人が中の人向けに出したメッセージだ」って意見が返ってくるのは想像がつきます. 一応,私も中の人の端くれですので.

そういう意見への更なる問いは,次のようなものです. 「中の人が外の人に向けたメッセージって,ありますか?」

組込みシステムが世の中をどう変えていくのか,最終顧客に向かって,右脳に語りかけるメッセージ,日本では久しく聞いていないように思います.

私が思いつく最近の例は,坂村健氏が中心となって発せられたトロンです. それでさえ,25年以上前になります.

世界的に,そういうメッセージを発することが廃れたかというと,そんなことはないでしょう. ユビキタス,IoT,タンジブル,…. バズワードという一部の陰口はあるものの,トロン以降の25年の間に,最終顧客の目前に提示される(それが概念であっても)メッセージはありました.海外では.

真摯ゆえの内向き

組込みシステム業界の場合,オピニオンリーダーの多くは,学者だったり専門性の高いエンジニアだったりします. ですので,自分の研究領域の中でベストを尽くすという態度は真摯でありこそすれ,disられるべきものではありません.

前出の坂村健氏も学者ではあります. が,80年代の彼は,メッセージ性言う点で異能でした.

しかし,専門家が専門に対して内向きであることが業界全体を覆ってしまったとすると,個々人の問題ではなくなってきます.

じゃあどうすんのよ

内向きに対しての”幸せ”のことしか話をしなくなったエコシステムで,長い目で見て残った例を,私は知りません.

かといって,「で,どうすりゃいいのよ?」って問いがあっても,私には,すぐに出せる案がありません. 案を秘してはいますが,2013年時点では実現可能性が低いので出しません.

「問題提起しておいてそれかよ」って言われても,仕方ありません. そもそも私の問題意識は的外れで,日本の組込みシステム業界は未来永劫の繁栄を続けるのかもしれませんし.

そんなわけで

インタビューでは,この点について,場末の組込みエンジニアがどのように向かい合えるか,といった辺りは話そうかなと思ったりしています. まあ,話したことが全部は載らない(ヘタすると全ボツ)ってのがインタビュー記事の醍醐味です. どうなるか,わかりませんけれどね.