組込みシステム Is 何?

曰く.

一円単位でコストを削っているのでファームウェア書き換え前提のプロセスは組み込みではないです。iPhoneは組み込みじゃないですから。

溜息が出る. 組込みシステムの文脈で露出の高い方から,こういう類の意見が出るたびに.

組込みシステムでは,一円単位でのコスト抑制がかかることは,珍しくは無い. それは,その通り. コストが全て.だから,最近の自動車のコンピュータは書き換え可能になっている. ムダ・ムラを徹底的に排除する,あのトヨタの自動車でさえも.

iPhone は組込みではないという. ならば,科学館や美術館へ行ってみるといい. iPhone の兄弟である iPad が,壁面に掲げられ,パネルに埋め込まれ,運用されているのをしばしば見かけるだろう. ああ,組込みシステムの開発者たちは,そういう場所に行く暇もないくらい忙しいのだっけか.

サイネージの多くが,Windowsで動いている. 自動販売機でLinuxのブートプロセスが表示されている写真が,SNSにアップロードされている. これらは組込みではないって?

リセットベクタから管理するのが組込み? ならば.NET Micro frameworkや一部の組込みLinuxは,れっきとした組込みだろう. これらは自ら(つまりファーム)の一部を書き換えるケースを暗黙的に仮定している.

組込みシステムの守備範囲は,膨大だ. そしていまだに膨張を続けている. この文明が滅ぶまで,膨張し続けるだろう.

歴史の中で,確かに,ファームウェア書換ができないシステムが優位な時代もあった. そういうシステムは今もあるだろう.今後も全滅するとは思わない. しかし,組込みシステムの守備範囲が広がっていく中で,割合として減っていくのは間違いない. かつて,自動車のエンジン制御用コンピュータは,ファームウェアの書換を想定した作りではなかった.家電も,同じ傾向があった.

時代の流れに抗っても,得られるものは多くない. 過去のある時点における優位をもって「組込み」を定義し続けたとき, 得られるのは自己肯定感だけだろう. 世間と専門家との定義の乖離は,専門家の価値低下を招き,組込みシステムを取り巻く業界を衰退に導くだろう.

溜息が,こぼれる.