君の代わりはいない.ぼくの代わりもいない.

食材の買い出しのため,八百屋に行った. タラの芽が並んでいた. そうか,そういう季節か.

タラの芽の天ぷらは,この季節の定番だ. …大好きかと問われると,実は,そうでもない. でもまあ,今の季節なら,食べる. 噛みしめると,そろそろ寒さも緩むな,という気がするから.

タラの芽を,夏の暑い盛りに食べても,別に変ではないだろう. 独特の軽い苦味は,夏バテにも効きそうな気もする. でも食べない. 旬じゃないから.

食べ物だけでなく,あらゆるものには旬がある. 昔の人は,人生を,春夏秋冬になぞらえた. 人は変わっていく. 私は変わらないと胸を張る人でも,老いていかないということはない.

そして昔の人は,世の中も,1年よりも長い何らか周期のあるものとして捉えた. その周期は,地方や時代によって様々だ. けれども一般論として,古今東西,環境が不変だいう解釈は無いということは言えるだろう. 世の中にも,旬がある.

人は,世の中で生きている. 自分も変わる.周りも変わる.

次のビル・ゲイツを」「日本のザッカーバーグは誰だ!?」「日本のジョブズを探せ!

ビル・ゲイツ,マーク・ザッカーバーグ,スティーブ・ジョブズ,いずれも成功したアイコンであることは,否定の余地がない. しかし,彼らの成功は,旬を無視できるような,汎用的なメソドロジによって為されたのだろうか.

私は,疑わしいと思う. ある人の,ある時の成功は,世界を取り巻くあらゆるものが旬であったから成し得たのではないか.

成功した人を見て,その成功を否定するほど,私はヒネてはいない. しかし,彼らの成功の要因には,その時代の旬が強く影響している,とは思う. 旬の巡りあわせだけで成し遂げられる,なんてことも思わないが. こういった微妙なところを無視して真似して,成功に辿り着けるのだろうか.

だれも誰かの代わりには成れない. コピーにも成れない.

IT関連の所轄官庁の一つである経産省が,企業への支援から,その一部を優秀な個人をも支援するようになってから,約15年になる. 具体例の一つであるIPA未踏事業については,実数は怠惰により調べていないが,3桁規模の採択者が存在するはずだ. 採択者には,その後,大成した人もいれば,そうでもない人もいる.

おそらく,メソドロジ確立のための母集団としては,そこそこ成り立つ量になっているだろう.

IT関連の育成に関わる方々のお考えは様々だが,成功した人の二番煎じになる天才を見つけよう育てよう,という考え方については捨てたらどうだろうかと,思う. そこそこの才能の持ち主が確実に成功するためのメソッドは,有り得ないだろうか. そういうメソッドの開発を考えるだけのデータは,そろそろ貯まってきているのではないだろうか.

ニッポンは,優れた人材を輩出し組織化する能力はあるが,それらの要因を調べメソッドとして抽出する能力は,極めて低い. このことは,しばしば言及されるところだろう.

アジャイルプロセスは逆輸入だし,ジョブズのソニー好き,ジェフ・ベゾスのKaizen好きもよく知られている. 日本の優れたところは,猿真似やコピーはされず,抽出・応用され,ニッポンを劣勢に追いやっている.

日本は,メソドロジの開発を,考えていく必要があるのではと思う. 苦手としている分,ことさら意識的に.

本稿はIT関係について述べている. でも,テクノロジが関わるあらゆる分野についても,似たようなことが言えるのかもしれないとも思っている.

など考え事しながら買い物をしていたら,タラの芽を買ってくるのを忘れた.